アメリカの航空業界は早くも黒字転換。なぜ?

アメリカの航空業界は、ワクチン普及や人件費削減、徹底した感染予防管理によって、2021年上半期で黒字転換を実現することができました。その影響は他の業界へもプラスに作用することが期待されますが、各国の状況によっても違いがあるでしょう。

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2021年半ばに黒字転換を実現

2020年の新型コロナウイルス感染拡大によって、世界中でさまざまな業界が大きな経済的ダメージを受けました。アメリカの航空業界も例外ではありません。アメリカの航空業界を牽引する大手3社、アメリカン航空やデルタ航空、そしてユナイテッド航空の売上高を見ると、コロナ禍において、3社の赤字額の合計は100億ドル程度にも及びました。これは、国や都市のロックダウンやユーザーの旅行控え、そしてクラスター防止による減便措置などの影響によるものです。

しかし、2021年4月から6月の決算を見ると、大手3社の利益は2億ドル超となっており、前年同期と比較すると、なんと96億円以上の改善となりました。その理由は、どこにあるのでしょうか?

ワクチン普及で国民の生活が戻りつつある

アメリカの航空業界が大きな赤字から黒字へ転ずることができた理由は、いくつか考えられます。

1つ目の理由は、やはりワクチンの普及ではないでしょうか。ワクチンが普及したことによって、国民の生活が以前の状態へと戻りつつあり、ビジネスやレジャーなどで航空機を利用するユーザーが増えました。現在でも、各航空会社の便数は以前と同じレベルにまで回復しているわけではないものの、利用者が戻ってきたことによって、少しずつ便数も回復の方向に向かうことが期待されています。

2つ目の理由は、徹底した衛生管理が挙げられます。コロナ感染に対して不安を感じる人は多く、その不安をぬぐうために、各航空会社では衛生対策や感染防止対策を徹底しています。機内ではもちろんのこと、空港内もこまめな消毒清掃を実施しています。乗客に対してはマスク着用を徹底し、守らない場合には罰金刑や搭乗拒否などのペナルティを課すなど、ルール厳守を徹底しています。

そして3つ目の理由として、航空業界では減便に伴って大規模なレイオフを行い、かかる人件費を最小限に抑えたという対策が挙げられます。航空業界全体で、コロナ禍における人件費削減は15万人から20万人に及びました。業界の事業回復に伴って雇用者の呼び戻しを行ってはいるものの、コロナ前と比較すると約8割程度しか達成できていません。そのため、利用者からのニーズの回復に伴って、業界では人手不足の状況が悪化しています。

しかし航空業界の試練はまだ終わったわけではない

アメリカ国内便に関しては、国民がビジネスやレジャーなどで戻ってきており、このまま回復傾向が継続すると考えられています。しかし、航空業界のマーケットは、アメリカ国内市場だけではありません。国際便や海外からの渡航者も、業界では大きな割合を占めています。

国際便に関しては、海外それぞれのコロナ対策やワクチン接種状況が異なるため、航空会社はそれぞれの国ごとに対策が必要となるでしょう。渡航制限や制限措置などはコロナの状況によって変動しており、制限解除されても数か月後には再び制限されることは珍しくありません。

航空市場の中でも、最もコロナからの回復が遅いと言われているのはアジア路線です。慎重なコロナ対策も手伝い、国内路線やヨーロッパ路線ほど回復の兆しをまだ見せていません。今後は少しずつ回復し、アジア路線も再び活性化することが予想されてはいるものの、早くても2023年ころになるのではないかと懸念する関係者はたくさんいます。

航空会社の事業回復は他の業界にも好影響を与えるのか?

アメリカ航空業界の事業回復は、金融業界をはじめとして、関係性が強い業界や企業へのプラスの影響として受け止められています。具体的にどのようなコロナ対策をしているかという点は企業ごとに異なりますが、感染予防対策としてオフィス再開を見合わせている企業は少なくありません。その結果、BtoCマーケットの回復と比較すると、BtoBの回復が遅れる可能性が懸念されます。近い将来には、商品やサービスの価格高騰などの形で、消費者にも影響を及ぼすかもしれません。