保険会社がM&Aのリスクヘッジ!「表明保証保険」とは?
表明保証保険とは、M&A取引において提供される情報が不正確であった場合に発生する損害賠償を補償するものです。この保険制度を利用することで、金銭的なリスクを抑えつつ買収交渉をスムーズに進めることが可能となります。
目次
表明保証とは
表明保証とは、M&A取引において売り手側の企業が買い手側に対し、提供する情報の内容が事実に基づき正確であることを保証するものです。具体的には、財務諸表や会計に関する情報が正確であり、簿外債務が存在しないことやデューデリジェンスの際に提出された内容が正確であることなどを保証します。また、企業として一切訴訟を抱えていないという点を保証することもあります。こうした内容はすべて最終契約書の中に記載されることになっており、その内容と事実関係に相違点があると明らかになった場合には、M&Aの契約が無効となることに加えて、大抵は買い手側の企業に対し損害賠償を支払う義務が生じるという条項が設定されます。
表明保証を行うメリットは「M&A取引におけるリスク回避」です。買い手側の企業は契約成立の前にデューデリジェンスを行い、売り手側から提出された書類の内容が企業の実態と合致しているかを確認する必要があります。とは言え、すべてを完璧に網羅したデューデリジェンスには膨大な時間と費用が必要となるため、実質的には非常に困難な作業です。そこで、契約解除と補償規定を付与した表明保証を契約書へ記載することにより、売り手側の企業に対して正確な書類作成を強く促すことができ、結果としてより効率的にM&Aの手続きを進めることができるようになるわけです。
保険会社の商品「表明保証保険」
表明保証保険とは、M&A取引において表明保証の内容が不正確で、違反が発生したと認定されたために違約金の支払いが求められたとき、その損害を補償する金融商品のことです。表明保証保険には、買い手側の企業を対象とした「買主用表明保証保険」と、売り手側の企業を対象とした「売主用表明保証保険」の2種類があります。
スモールM&A向け保険が好調
表明保証保険の中で人気を集めているのが「スモールM&A向け保険」です。これは、中小企業を対象としたM&Aに特化した表明保証保険となっています。補償対象となるのは10億円前後までの買収案件で、スピーディーに契約できる点や補償内容が手厚い点などが評価されています。中小企業のM&Aではデューデリジェンスのために十分な人材を確保することが難しく、最終契約が完了した後で簿外債務が明らかになったり、税金の未払いが発覚したりというケースが珍しくありません。その結果、買収した側の企業が多額の債務を抱えることになり、経営が傾いてしまうということもあるのです。こうしたリスクを回避するうえで、スモールM&A向け保険は非常に有効な対策ということができます。
表明保証保険を利用する利点
買い手側の企業にとって、表明保証保険を利用する最大のメリットは「補償に関する煩雑な交渉を避けられる」という点でしょう。2社間で表明保証に関して規定を設ける場合、補償条件が折り合わず、肝心の買収交渉がまったく進展しないということが起こり得ます。そこで表明保証保険を活用することにより、条件交渉をほぼ省略することができるのです。実際に表明保証違反が起こってしまった場合にも、補償の請求先は売り手側の企業ではなく保険会社となるので、話し合いをスムーズに進めやすいという利点があります。買収対象が海外資本の企業である場合は特に有効です。
売り手側の企業が表明保証保険を契約する直接的なメリットとしては「長期間にわたって賠償のリスクが抑えられる」という点が挙げられます。M&A取引において表明保証違反のリスクが高いのは、デューデリジェンスに伴って大量の情報を提供する売り手側の企業であり、実際に違反認定を受けてしまうと、莫大な賠償を請求されることになります。表明保証保険へ加入することで、契約交渉中だけでなく、最終契約書の締結以降に関しても補償金の支払いに関するリスクを抑えることができるというのは大きなメリットということができるでしょう。また、保険へ加入することで買い手側の企業から信頼を得やすくなるというのも利点です。
表明保証保険の注意点
表明保証保険を利用するうえで注意すべきポイントは「すべての表明保証違反をカバーしているわけではない」という点です。M&A取引において、「表明保証違反である」と認定される項目は多岐にわたっています。一方、表明保証保険が補償している項目は限られており、対象外となる項目もたくさんあるのです。例えば、将来的な業績予測が不正確であったり、退職金の積み立て額が不足していたりするのは表明保証違反ではあるものの、保険の補償対象ではありません。ですから、保険加入前に詳細を確認しておくことは大切です。また、「表明保証保険の加入には審査がある」という点も注すべきポイントと言えるでしょう。保険会社は加入時の審査としてM&A取引そのものをチェックします。両社から提供される情報を精査して、取引の信用性や成立する可能性が低いと判断された場合には、加入を断られるということを覚えておきましょう。